荒縄工房 作品のコンセプトに迫る!

――あんぷらぐどさんの作品は、読みやすいですね。どういうところに気を配っていますか?
 同じ夢なら、すてきな夢がいいですよね。現実はおもしろいこともあるけど、そうでないこともいっぱいあります。そんな中で生きていくためには、夢、ファンタジーも必要だと思うのです。
 私の書く世界はファンタジーであって、SMを実践する人のためのテキストではありません。ありえないようなシチュエーションもありますし、フツーでは起こらないような反応を登場人物がすることも多々あります。そうしたことをひっくるめて、一時、すべてを忘れて楽しんでいただきたいと思っています。
 一応、すべて自分の欲望が種になっていますけど、そこからぐーんと押し広げていって、風景を描いていく感じなんです。ただ、油絵というよりは、水彩画に近いのではないかと思うんです。やっぱり、文字にするとイメージはぼんやりとしたものになりますし、それを強い言葉で補い続けていると、書いている側も読んでいる側も、疲れちゃうんじゃないかなと思ったりしています。けっこう、さっぱりした感じになっちゃうのは、ぼくの体力のせいかも。

 ゴリゴリ押していくところも意図的に作っていますけど、さっぱりしたところもあっていいかな、というのがぼくの感覚なんです。

――基本はマゾというか、自虐的というか……。
 あんまり、強引に一方的にサディスティックに展開する話はないと思います。どこかしら、当人が自分なりの自虐的な部分に気づいて、深みにはまっていくパターンが好きなんです。いずれ、もう少し強引に、はめこんでいくような作品も作りたいとは思っていますので、まったく自虐のみ、というわけではありません。
 ある作品なんて、途中までゴリゴリ責めておきながら、日常にあえて戻してやるんです。そして、今度は当人が、理不尽に受けた暴力の世界か、これまでの世界かを選ぶのです(『隷獣』)。それとか、朝から晩まで責め続けていたのに、ポッとなにもしない日をあえてつくる(『亜由美 第一部』)。ジェットコースターでも、いっきに落ちたあとの、緩斜面みたいなところがあるでしょ。ぼくは、あそこが好きなんです。

――ご自身もマゾ?
 サディスティックな時もありますし、マゾヒスティックな時もあります。性格診断では必ずドSと出ます(笑)。仕事では部下によくそう評価されていたので、やっぱり基本はドSなんだろうと思っていますが、だからか、よりいっそう、マゾに興味があります。どうして、そっちに行ってしまうのか、とっても興味があって、日頃から考えているから、そういう作品が多くなっているのかもしれません。

――ハードな拷問、または強烈なスカトロ、さらに獣姦なども取り入れていますけど。
 作品の中で、ぼくが欲しいのはズバリ「自由」です。ぼくにとって、作品を書くことは、最終的な自由を手にする唯一の行為だとさえ思っているんです。世の中、現実的にはほとんど自由はありません。高度に発達した社会では、モラルもとても厳しくなっていますし、コンプライアンスなんて言葉を子どもでも口にするぐらいになってきているわけです。
 あと、お金さえあれば自由が手に入ると勘違いしている傾向も、いまだにありますよね。
 でも、自由はそういうものじゃないと思うんです。
 かっこよく言えば、自由はその人の心の中にあるものでしょう。イマジネーションです。その結果、すごくひどい行為を想像することもあります。想像したものを否定したくなる、忘れたくなることもあります。だけど、それも自分の中の自由が生み出したものなんです。
 あまりにひどい内容、というのもたしかにあると思います。不快な思いをされた方には申し訳ないですけれども、ぼくの中の自由には、できるだけ例外を設けたくないという気持ちがありまして。
 たとえば、マゾはすべて女性、女性にはマゾ性が基本的にある、といった感覚だけでは満足しないのです。男にもマゾ性はあるでしょうし、そこはあんまり男女差はないと思います。男が堕ちていく作品も書きたいし。そうは言っても、「製造物責任」もあるでしょうし、自分に引き受けられる責任の範疇を越えていくのは、なかなか勇気がいることなんで……。


――でも、あまりにも危ないイメージっていうのは、嫌悪感を引き起こしませんか?
 嫌悪って大切な感覚だと思いますよ。
 世の中で、「好き」「キライ」にわけて考えたとき、「好き」だけを選択していくと、不思議とそれは醜悪な世界になっていき、たくさんの人から嫌悪されることもあります。アイドルとか「好き」なファンと同時に、「キライ」という敵も育てていますよね。
 一方、だれもがキライなことを率先してやっていくことが快感になっていくと、素晴らしい人と評価されていくこともあります。
 ぼくは、あえて嫌悪される作品を作りたいとは思いませんけど、ある程度の嫌悪を乗り越えていくような作品は書いてみたいと思っています。「そこまでするの?」と思えるようなことを、もし描けたら描いてみたいんです。
 ですが、けっこう難しいものです。文字ならなんでも書けるだろうと思うかもしれませんが、けっこう葛藤はあります。その葛藤を楽しみたい、というSとMのいいとこどりみたいなことをしている感じです。


――さきほど、「自由」という話がありましたが、それは根底に「肯定的」、ポジティブな世界ってことでしょうか?
 単純にすべてをポジティブにとは思えませんよね。
 人はあまりにも簡単に死にます。死んでしまうと、この世での活動はできなくなります。じゃあ、この世ってなんだよ、ということです。
 生まれてきて、自由に生きることができるなら、その中でどこまでやれるか、やってみようってことかな、と。
 それが、たまたまぼくには書くことだったわけです。そして、SMにはとても関心があったし、フロイトとか、心理学にも強い興味がありましたしね。やっぱり興味のあることを自由に書きたい、という欲望があるんです。単なるぼくのエゴですけど。それも、すごくちっぽけなものです。大それたことではまったくないし、やってもやらなくてもいいようなことです。ただ、やっておかないとぼくは死ねない感じがしているのです。

――自分を否定しゃちゃう、絶望しちゃうみたいな面はありませんか?
 それは違うと思うんですよ。
 SM小説は必ずしもそうではないものもありますが、官能小説って人間を肯定する世界でしょう? どんなエロな妄想、どんなハレンチな行為、眉をひそめる欲望をも肯定するんです。それは「生きている」ことを丸ごと肯定するものだと思うんです。大げさですけど(笑)。
 さらにSMの世界には、人生や自分自身を否定する行為さえも肯定する、それも飲み込んでしまおう、という感じがあるんです。
 こんなダメな自分だけど、快楽に溺れてもいいんじゃないか。そこで生きる実感が得られるなら、という話です。切ないですけどね。
 推理小説も好きですが、あれって、バンバン、殺されるでしょ。人間の欲望によって人が殺される話ばかりです。
 官能小説は、正反対。人間の欲望によって人が生きる話ばかりです。
 SM小説は、いきつくところは死ですけど、そんなことを言ったら、人間は最終的に死ぬわけなんで、なんでもそうです。ただ、死ぬまでの間、どれだけの快楽を得るか、快楽のためにどこまでするか、という話だと思っています。その意味では、ポジティブにしかならないと思っているんです。

 ぼくは、作品の中では、滅多に人を殺しませんので(笑)。

――これからの作品について教えてください。
 具体的なことはぼく自身、よくわかりません。書いてみても、うまくいかないことも多いのです。「あれ、これ、ぼくの思っていた世界じゃない」となっちゃうと、もう書けなくなっちゃう。それが、あらかじめわかればいいんですけど、案外、わからないんです。
 ただ、これからも、できるだけタブーのない世界を描きたいし、完全燃焼するような話を目指したいとは思っています。人間の欲望、イマジネーションを疎外している抑制を外して、自分自身の裏をかくようなことをしながら、楽しい作品が書きたいと思っています。
 もちろん、最終的には読者のみなさんが満足されることを目指していますので、工夫もしていくつもりですけど。
 SM小説はすぐに書き尽くせてしまいそうなジャンルに見えていますが、鞭とロウソク、浣腸だけでも、もっといままでとは違うものが書けそうですし、だいたい、ぼくはこれまでロウソクをほとんど使っていない(笑)。まだまだ、やっていないことがいっぱいあるし、それを自分なりの世界でやっていけるのではないかと、思っているんです。
 もうこれ以上のものは書けないと、毎回思っていますけど、翌日には「こんなのがあるかな」と、もう、新しい妄想が始まっています。それが続くかぎり、書いていきたいし、その間に、自分の考えやSMについてのスタンスが変化していくのではないか、という楽しみもあります。きっと、来年の今ごろは、ぜんぜん違うことを言っているかもしれませんけど(笑)。
――2012年2月、聞き手&構成・小野晃正(秋葉原某所にて)

同人「荒縄工房」の作家について

 あんぷらぐどは、ペンネームです。
 はるか昔、「仲ゆうじ」名でSM小説をいくつか、SM雑誌に掲載させていただいていた時期があります。
 その後、作家活動は休止し、編集などの仕事に携わってきました。

 そのうちに、作品を発表する場が少なくなっていきましたので、書いてはいましたが、世には出さない時期が続きました。

 インターネットが普及したこと、18禁のブログが普及したことによって、いくつかのペンネームで、作品を発表しました。
 たとえば、現在刊行されている『堕ちる』の原型は、「ふにゃふにゃ」というペンネームでブログ形式で連載していました。

 その後、さらに過激な内容を求めて、ペンネームを「あんぷらぐど」とし、掲示板スタイルの小説サイトに投稿していました。
 しかしながら、自分の求める作風と、管理者との間には大きな差があることもわかり、最終的には削除いたしました。

 今般、ブログで掲載し、それを再編集し、加筆修正したものを刊行する、という流れを作ることができましたので、荒縄工房のあんぷらぐどとして、旧作の再編集、書き直し、さらに書き下ろし新作にも取り組んでいます。

 なお、当初「荒縄工房」では、同人として小野晃正が参加していました。横溝正史ミステリー大賞の最終選考に残るなど、いろいろなペンネームで作家活動をしていましたが、その後、別の道に向かうこととなり、現在はあんぷらぐど1人での運営となっています。

●荒縄工房の作品はこちらでダウンロードできます●
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※ダウンロードサイトによって、作品数などに違いがあります。ご容赦ください。

 なお、このサイトおよび「荒縄工房」で取り上げている作品はすべて、フィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。また、特定の団体、宗教、人種、性別などを誹謗中傷する意図はありません。現実の暴力や差別を推奨するものではありません。

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